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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)11号 判決

主文

原判決中控訴趣意第一に対する部分並びに第一審判決の判示第二事実に対する有罪部分を破棄する。

同事実につき被告人は無罪。

その余の部分に対する本件上告はこれを棄却する。

理由

弁護人梅山実明の上告趣意は、違憲をいうが、その実質は、単なる法令違反の主張に帰し、また、判例違反をいうが、所論判例は、本件に適切でないから、その前提を欠き、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権をもって調査すると、原判決の判示は明確を欠くが、原判決の判示と原判決の引用した第一審判決挙示の関係証拠並びに控訴趣意第一の記載とを綜合すれば、原判決は結局「被告人が本件捜索差押を受けた(昭和三一年)四月二七日朝偶々被告人の経営している飲食店に朝からやって来ていた二人の客から依頼を受けてその客の嗜好に応ずるため便宜を計ってその場で客から求めらるるが侭に被告人製造の清酒(五勺)と市販の焼酎(五勺)とを調和混合して(合計一合を)提供したものである」との右控訴趣意記載の事実関係を認容しながらその事実関係を以て雑酒一合の製造をしたものに当るとの法律見解を判示したものと見るのを相当とする。しかるに、酒税法四三条六項は、「前各項の規定は、消費の直前において酒類に他の物品(酒類を含む。)を混和する場合で政令で定めるときについては適用しない。」と規定し、同法施行令三二条は、「法第四三条第一項から第五項までの規定は、酒場、料理店その他酒類をもっぱら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、消費の直前において、酒類(法第五十六条三項の規定によりその酒税を徴収されるべき酒類を除く。)に他の物品(酒類を含む)を混和する場合については、適用しない。」と規定している。従って、原判決の認容した事実関係の場合は、右酒税法並びに同法施行令の規定にいわゆる消費の直前において酒類に他の物品(酒類を含む。)を混和する場合であって、しかも、本件清酒(五勺)は、被告人が第一審判決の判示第一のように自ら製造したもので、製造者が判明しているから、右施行令の規定のカッコ内にいわゆる酒税法五六条三項の規定によりその酒税を徴収されるべき酒類に当らないものといわなければならない。それ故、本件のような調和混合は、結局酒税法上の酒類の製造に当らないものというべく、従って、原判決の控訴趣意第一に対する判断の部分は失当であって、同部分並びに第一審判決の判示第二事実に対する有罪部分は、刑訴四一一条一号により、主文一項のとおりこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認めなければならない。

よって、同四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により主文二項のとおり右事実につき被告人に無罪を言渡すべく、爾余の点については、上告趣意として何等の主張がなく上告理由がなきに帰するから、同四一四条、三九六条により主文三項のとおり棄却すべきものとする。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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